北川が審美の世界と出会ったのは、前職である歯科大学病院の勤務時代だった。
大学病院に勤務するかたわら、歯科技術を高めるために、数々の開業医を訪ねていた。サポートをしながらたくさんの歯医者を見て回るうち、機能を回復させることをゴールとした治療に疑問を持つようになる。
「一般歯科は機能の回復が目的になるので、見た目が綺麗にならないんですよね。せっかく被せものをするのだから、もっと綺麗になる方法とかあるんじゃないかな?と思った時に審美の世界を知りました」
北川は早速、知り合いの医師を通じて審美歯科のある美容外科を複数見学した。SBCメディカルグループを見学した時の感想を、北川はこう振り返る。
「まず、入口の受付カウンセラーさんの表情が違うんですよ。笑顔も挨拶も、プロとしての振る舞いでした。先生方も、若い人が多いでしょ?SBCメディカルグループは当時から勢いがありましたけど、これからもっともっと発展していくんだろうな、と可能性を感じました」
飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を続けるSBCメディカルグループは、圧倒的な症例数を誇っている。医師として成長するためには経験を積むことが大切だと考えていた北川は、イキイキと働くスタッフたちと共に、自分もここでたくさん経験を積んでいきたい、と感じ、SBCメディカルグループに入社する。
「次の3ヶ月もこのまま売上が低かったら、横浜院は閉めよう」
湘南美容クリニックで順調に経験を積み上げていく北川に、チャンスが訪れる。「湘南美容クリニック歯科横浜院の院長をやらないか?」と声をかけられたのである。迷わず手を挙げた北川は、院長として新しいスタートを切った。
湘南美容クリニック歯科 横浜院 開院時の写真
ところが、北川はここで壁にぶつかる。来院数が思うように伸びなかったのである。
「はじめは、正直『湘南美容クリニック』というブランドがあるから、なんとかなるだろうと思っていたんです(笑)。実際は厳しかったですね」
まずは、集客をしなければ。そう考えた北川は、価格を下げた。来院数が伸び悩んでいる理由は価格にあると考えたのである。しかし、結果は出なかった。むしろ、たくさんの治療をこなしても安い単価では目標の売上に届かず、いつも以上の人力、労力を使って疲労が溜まっただけだった。
そんなとき、追い打ちをかけるような出来事が起こる。
会議で、湘南美容グループ代表である相川から、「一緒に、あと3ヶ月頑張ろう。でも、もこのまま売上が低かったら、横浜院を閉めることも検討しないといけないね」言われたのである。
お客様にもっともっと満足してもらえるような価値を提供しないかぎり、横浜院の未来はない。自分の甘さを痛感した北川は、『湘南美容クリニック』というブランドに対する甘えを断ち切った。
1冊の本との出会いによって気付いた、リーダーとしてのあるべき姿
ただ、どうにかしたい思いはあるのに、どうすればいいのか、その方法論が分からない。経営に対する考え方が甘いのだろうか?マネジメントの方法はこれでいいのだろうか?はたまた、自分の人間力に問題があるのだろうか・・・?横浜院が軌道に乗らない原因がどこにあるのかも分からず困惑した北川は、「もっと自分を高めていく必要がある」と感じ、相川をはじめ、横浜院のスタッフ、開業医として歯科を経営している医師にも相談した。相談しながら、現状を打破するヒントを探すために勧められた本は全て読んだ。
そんな中、相談した経営者全員から共通して紹介された本がある。それが、「ザ・ゴール(エリヤフ・ゴールドラット著)」である。全体最適のマネジメントについて書かれており、世界的ベストセラーとなっている本である。その本の主人公が「3ヶ月後の工場閉鎖を勧告された工場長」という、当時の北川の状況と非常に似ているものだった。
北川は、この本から一つの気付きを得た。
「私は、リーダーとしてのあるべき姿を勘違いしていたんです。この本に出会うまでは、『全部自分が道を示さなければ、みんなが露頭に迷ってしまうんじゃないか』って思っていました。けど、みんなそれぞれの道のプロなんだから、もっと任せて、自分は後ろから支えればいいんだって気付いたんです」
先頭に立つものだけがリーダー、というわけではない。一人で意思決定しなければいけない理由などどこにもない。むしろ、共通のゴールに向かって、それぞれが持っている能力を発揮できる環境が必要なのではないだろうか。
そう考えた北川は、目標を実現するために、どうしたらいいのか、何をしていくのかを全員で話し合って決めた。それぞれのスタッフに与えられるだけの権限を与え、どんどん責任ある仕事を任せていったのである。
すると、効果はすぐに現れた。
「『もっとたくさんのお客様にきてもらえるようなキャンペーンの企画を提案してほしい』と伝えたら、翌日には3つも案をもってきてくれたりとか、そのキャンペーンも自分たちで考えて決めたものなので、すごく前向きに取り組んでくれるようになり、そのあとも色々な企画とか取り組みを自分から提案してくれるようになっていったんです」
責任ある仕事を任せられるようになったスタッフは、自分の役割を果たすべく勉強するので、個々の成長スピードが格段に上がる。「やらされている」という意識から「自分がやる」という当事者意識に変わるので、モチベーションも上がる。任せることで北川も自身の集中すべきことに注力できる環境が出来た。
結果、売上も3倍、4倍と増えていき、現在の横浜院がある。
「スタッフのみんなも気軽にビジネス書を読めるように」と、おすすめの本の漫画版を置いているそうだ。
この改革は、自分の功績ではないと北川は話す。
「彼女たちが、責任ある仕事をこなせるだけの技量を身に付けてくれたから今の横浜院があります。『ついていけません』『こんなこと急に言われてもできません』なんてことは一言も言わずについてきてくれました。本当に感謝しています」
湘南美容クリニック歯科横浜院のスタッフは、全員がより良くしていくための方法を全力で考えている。「先生、これでいいんですか?こっちの方がいいんじゃないですか?」と提案されることもよくあるそうだ。
「みんな物怖じせず横浜院のためにハッキリと意見を言ってくれます。自分も負けないようにと、勉強する日々です(笑)」と笑いながら話す。
「三方良し」なクリニックを目指して
北川の今後の目標は、横浜院をSBCメディカルグループの理念でもある「三方良し」を体現するクリニックにしていくことだ。
「三方良し」とは、「全スタッフの物心両面の幸福を追求すると共に、お客様に最高・最良の美容・健康・医療サービスを提供することで社会に貢献する」というSBCメディカルグループの理念である。
「僕もみんなもやりがいを持って幸せに働いていれば、自ずとお客様に喜んでいただける医療が提供できます。それが、結果的に売上にも繋がる。そういうプラスの循環が『三方良しなクリニック』だと考えています」
自分たちが満足して働けないクリニックに来て、お客様に満足していただけるわけがない。お客様が満足しないクリニックの売上が、上がるわけがない。どれか一つだけでも欠けていては「三方良し」は成し得ないのである。そのためにも、まずは自分が幸せに働くことが大切なのである。
「横浜院を三方良しなクリニックにして、そのあとは、SBCメディカルグループの歯科統括院長になっちゃいますか!」と笑いながら話す北川の顔はとても幸せそうだ。
スタッフ一人ひとりが常に高みを目指し、挑戦を続ける湘南美容クリニック歯科横浜院。その成長はまだ留まることを知らない。
※このエピソードは2016年7月時点のものです。現在は小岩淳先生が湘南美容クリニック歯科横浜院の院長を務めています。